源森橋の鏝文字

墨田区

 源森橋といえば、今では北十間川を手前に収めた東京スカイツリーの撮影スポットとして有名(?)ですが、江戸から戦前にかけてのこのあたりは、中之郷瓦町と呼ばれ、川沿いには瓦の焼き場があり、瓦屋さんが軒を連ねる町だったそうで、長谷川雪旦の名所図会(早稲田大学図書館古典籍総合データベースより)にもその活気が描かれています。
 その源森橋を三ツ目通り沿いに南に進みますと、見事な鏝文字に出会います。
 長体気味の楷書の屋号は、文字を少しでも大きくしようという工夫でしょうか。堂々とした書風と相まって、風格を感じさせます。
 東南向きの角地は、商売には都合のいい立地として昔から人気のある方角。立派な瓦屋根と、スチール製のベランダに、往時の繁盛ぶりを感じます。今はアルミサッシとなってしまった扉も、かつては木製の趣きのあるものだったのでしょう。
 ちなみに「汽罐」とはボイラーのこと。蒸気で走る汽車も嘗ては「汽罐車」と書き、宮沢賢治の『氷河鼠の毛皮』の一節にも、「汽罐車はもうすつかり支度ができて暖さうな湯気を吐き、客車にはみな明るく電燈がともり、赤いカーテンもおろされて、プラツトホームにまつすぐにならびました」とあります。

○汽罐と煙突 内田工業株式会社


Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *