よむ牛乳

 町歩きを続けていると、時々見かけるのが旧い牛乳販売所。
今はコンビニやスーパーで買う牛乳も、昔は販売所へ買いに行ったり、配達してもらったりすることが一般的でした。
 牛乳屋さんを見ると、思い出すのが「銀河鉄道の夜」です。
       
 「あの、今日、牛乳が僕んとこへ来なかったので、貰いにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命勢よく云いました。
 「いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。」その人は、赤い眼の下のとこを擦りながら、ジョバンニを見おろして云いました。
 「おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。」
 「ではもう少したってから来てください。」宮澤賢治『銀河鉄道の夜 四、ケンタウル祭の夜』より
 母親の元に今日は届かなかった牛乳を受け取りに、牛乳屋さんへ行くのですが、その時は受け取ることができません。その帰り、銀河のお祭りを見にゆく途中の同級生たちとすれ違い、やがて銀河への旅に出ます。
       
 町内にひとつは必ずあった「牛乳屋さん」。その名もあまり聞くことがなくなりました。
 そのせいなのか、あるいは冒頭に引用した銀河鉄道の夜のせいなのか、私が牛乳屋さんの前をとおりがかる時、必ずといっていいほど、郷愁に似た感覚に囚われます。
 「お惣菜屋さん」、「お煎餅屋さん」、「荒物屋さん」、「乾物屋さん」……。
 町歩きを続けていると、人々の暮らしや、町の変化とともに少しずつ、かつて親しんだ言葉たちが、まぼろしのように立ち消えてゆくことに気づき、寂しさを覚えます。
 ですが、こうした「新陳代謝」もやっぱり必要で、その先には、より良い世界が待っているといいなと願っています。

○牛乳販売所

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