





橋を越えるときに神田川を見下ろして、屋形船が係留されているさまを眺めていると、今が一体いつなのか、忘れてしまうことがあります。
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道楽が過ぎて勘当され、柳橋の船宿・大枡の二階で居候の身の上の若だんな、徳兵衛。暇をもてあました末、いなせな姿にあこがれて「船頭になりたい」などと、言いだす始末。
親方始め船宿の若い者の集まったところで「これからは『徳』と呼んどくれ」と宣言してしまった。
お暑いさかりの四万六千日。 ――落語 船徳より
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かつて柳橋は、料亭が七〇軒、芸者三〇〇〇人と言われ、隆盛を誇った花街だったそうですが、現在はその面影をぽつりぽつりと残すのみ。
まぁ、その頃のことは知らないわけですが、個人的には柳橋といえば落語などでよく耳にする舞台であり、中でも暑い盛りに演じられることの多い「船徳」で、道楽が過ぎて勘当された若旦那徳兵衛が、船頭となり、おっかなびっくり猪牙舟を漕ぎ出す場所でもあります。
柳橋から見える屋形船といえば、「小松屋」さん「井筒屋」さんに「あみ春」さんなど。中でも橋に面した昭和二年創業の「小松屋」さんは、佃煮店としても営業しており、日々の買い物で訪れる人の出入りも、柳橋の風情となっています。
現在では、猪牙舟を仕立てて大川へ、などということは出来ないようですが、それに代わり、東京都による水上タクシーなるものがテスト運用されているとか。
台東区でもこの柳橋は好きな場所のひとつです。
町の風景だけでなく、水辺の風景も、時代とともに様変わりしてゆきますが、のんびりと猫が遊ぶこの景色は、いつまでも変わってほしくないものだなと感じます。
○柳橋