馬喰町の文字

中央区 2009年

 段々と日が傾きかけ、今日はもう会社に戻らなくてもいいかな。そんな感じの夕方に、このような文字に出会ってしまったらどうしましょう。胸は高鳴り、きっと暖簾をくぐらずにはいられなくなりますよね。
 白地に墨染の堂々とした行書。馬喰町の銘店「佐原屋」さんです。
 馬喰町は、隣接する横山町の問屋街を訪れる仕入れ人たちのために、江戸から明治にかけて、江戸一番の旅館街として発展してきました。横山町とともに、現在の一大繊維問屋街に近いかたちになったのは、大正三年十二月の、東京駅の開業がきっかけだそうです。汽車の開通によって、仕入れに来る人たちが宿泊せずに済むようになったためなのでしょう。
 「佐原屋」さんの創業は1965年。高度経済成長の真っ只中、東京の中心にあるこの問屋街の活況は、いかばかりだったでしょう。
 現在の馬喰町はといえば、背の高いビルが立ち並ぶオフィス街ですが、最近では東日本橋エリアで見れば、古い建物をリノベーションした小さなギャラリーが立ち並ぶ街としても知られるようになりました。
 暖簾をくぐれば、古くともしっかりと手入れされた白木のカウンターがお出迎え。砂利の三和土とカウンター下のモダンなタイル装飾のコントラストが、ちょっとしたタイムスリップへと誘います。
 ちなみにこのカウンター、手前からケース側に向けて傾斜がついています。お酒をこぼしたときに、お客にかからないようにする工夫だとか。
 暖簾の文字に惚れ惚れしたら、店内の短冊の文字たちを眺め回しましょう。数えきれないほど貼られた文字たちの中に、きっとあなたの気分にぴったりの一品が必ず見つかるはずです。
 余談になりますが、個人的に佐原屋さんには、会食や撮影などでもお世話になっています。お店の方もとても気さくで、気持ちの良いお店です。

○馬喰町 佐原屋

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